二次創作レポート

【秘密の写真集】

夕方、食事を終えて部屋に戻ろうと廊下にさしかかると、平田が段ボールを抱えて歩いてきた。
「おかえり平田さん、出かけてたのか」
「おー、たっだいまー!うん、ちょっとね。コミケに行ってきた!」
「コミ、ケ……?」
怪訝な表情を見せた紫に平田はビックサイトで行われてるという大型イベントの概要を分かりやすく説明した。
「え……、平田さんが本を売ったりするのか?」
「いやいや、俺は一般参加!予定も空いてたし……それに俺、エロゲの自由の表現を守った界隈ではちょっと有名な政治家なんだよね!」
「そういえば……最初に会ったときにそんなことを言っていたような……」
「あー、紫はエロゲしないもんな。ま、でもそんなわけで応援してくれる若者に直接会って話をするいい機会にもなるしね」
うんうん、と頷きながら大事そうに段ボールを抱える。印刷所のマークが入ったそれをじっと見つめると、平田は思い出したようにしゃがんで中から数冊本を取り出した。
「これ見てよ!俺のイラスト本だって。そっくりだよねー、うまいもんだよ」
「え……」
「これは俺がよく通ってる店をまとめたレビュー本、そうそう、この店はこれがオススメで……」
「いや、ま、待ってくれ平田さん」
「なに?」
本の中には明らかに様子がおかしいものがある。おかしいというか、平田だけではなくて、なんとなくアジトメンバーに似たキャラクターや、見たことのある政治家によく似た姿もある。
「あー、俺は基本活動許可してるから、いろんな本が出るし、まぁ、そういうのも、あるよね……みんなには内緒ね」
「……それは、いいのか?」
「いい、とは言えないかなぁ。政治家だし、一応、俺たち実在してるじゃない?だから難しいルールもいろいろあるんだ。わざわざオープンに話したり、誰かに教えたり、踏み込んだりはしてないよ。そこは空気読めるよ、大人だからね!今日だって、貰ってくださいって直接渡してくれたものだし……」
でも、とページをめくり、にこにこ笑う顔が描かれた本を顔の横に並べて平田は笑う。
「俺のことを描きたい、こんな顔が見たいって思ってるんだなぁって思うとちょっと嬉しいよね」
「…………」
「どこにでもマナーはあるし、それが守られることで文化は成り立っていくんだから。エロゲの表現もそう、全部ダメだ!破廉恥だ!なんて切り捨てたらそれはもうエロゲじゃなくなっちゃうんだよ!」
「多分いいことを言っているんだろうけれど、そんな感じがしない」
「え~!?」
ガッカリした顔に思わず噴き出した紫は、ずっしりと重い段ボールを持ち上げる。
「疲れたんじゃないか、部屋まで運ぶ」
「ありがと~、紫!そうだ、ついでにちょっと読んでみてよ!」
「……考えておく」
足取りも軽く鼻歌を歌う平田の横顔を見て、紫は笑う。
どうやら今夜は眠れなさそうだ。


END