☆2藤堂巴誕生日レポート

!!!シナリオ観覧のご注意!!!
このシナリオは、BloodyChainの二次創作であり、登場する複数のキャラクターへの解釈違いがある場合がございます。
また、祠堂紫以外のキャラクター同士が接触する描写がございますが、全年齢のみですのでご安心してお読みください。

【内緒の誕生日1話】

 春の訪れを感じる暖かな午後。
物資の流通も緩やかではあるが明るい兆しが見え、商店街も賑わいを取り戻しつつあった。
「やだ~!可愛い~」
「ほんまかわええわぁ。このサイズなら服にもつけられへんかな」
黄色い声をあげて見つめる先には、可愛らしいディスプレイで飾り付けられた色とりどりの動物のチャームやキーホルダーが並んでいる。
食料調達の帰りに最近オープンしたというファンシーショップを見かけた二人は迷うことなく店に飛び込み、ガールズトーク(?)に花を咲かせていた。
付き添いに紫と藤堂も一緒だ。
(娯楽施設も復旧し始めたし、少しずつだけれど楽しむ余裕が出来たってことなんだよな……)
店内を見てまわり、一息ついてスツールに腰掛ける。
「…………」
(あ……)
居心地が悪いのか機嫌が悪いのか、そのどちらでもあるのだろうか、藤堂はいつになく無口で黙ったままあらぬ方向を見つめていた。
(確かに不似合いといえばそうだな……)
藤堂巴という男は元ヤクザだ。行きがかり上、行動を共にしているが、さすがに店に入るのは本人も本意ではないだろう。誰かに見られていたら困ることもあるかもしれない。
(熱心に何を見ているんだ?)
藤堂の視線をなぞるように追ってみると、窓際に大きく背伸びをし、おなかをだして寝転んでいる白いねこのぬいぐるみが置かれている。
(? ねこの……ぬいぐるみ……?)
「……はぁ」
わずかに呆れにもため息にも似た声を漏らして藤堂が頭をもたげて休憩する紫の元へ歩み寄った。夜光のいっそう大きな声が店内に響き渡る。
「まぁだ騒いどるんか。紫も飽きたじゃろ、そろそろ戻るか」
「……」
「どうした?疲れたんか」
ん?と首を傾けてこちらを気遣う藤堂の顔をじっと見つめる。
これが勘違いや思いすごしでないとすれば、さきほどのあの表情はおそらく……。
「藤堂さん、もしかして……あのぬいぐるみが欲しいのか?」
「は!? んなわけあるかい!」
言葉尻にかぶせるように藤堂が否定する。
しかしその態度は普段と明らかに違っていて、さすがに普段鈍感だと言われる紫にも分かるほどだった。
「…………」
金に糸目を付けず、豪快かつシンプルに、欲しいものがあればさっと手を伸ばしそうな性質の男がぬいぐるみひとつに遠慮する姿はどこか愛らしさすらある。
「本当にか?」
「どこをどう見たら欲しがってるように見えるんじゃ」
(いや……どう見ても……)
すねたこどものように口を尖らせる藤堂に、紫は少しだけ可愛いなと思うのだった。


To Be Continued
【内緒の誕生日2話】

調達の帰りに立ち寄ったファンシーショップ。
夜光や大雅に付き添う形で店に入った紫だったが同伴した藤堂の様子がどこかおかしい。
ねこのぬいぐるみが気になっているかのような態度に紫は直接本人に聞いてみたが、当然のように否定された。
「日ぃ暮れるで、そろそろ帰るど」
これぞという一品を決めかねて悩んでいる夜光の背中に藤堂が声を投げる。
「あーん待って!迷ってるのよ……。ねぇ藤堂さん、このうさぎちゃん、どっちがいいと思う?」
「そんなん、どっちでも変わらんじゃろが」
「えぇ~、よく見なさいよ~。表情がちょっと違うのよ」
「……あー、……じゃあこっち」
「ちゃんと選んでよぉ!」
「ほれ。大雅もはようせえ」
「んー……、なぁなぁ、藤堂はんはどっちがええと思う?」
「大雅の服に合わせるんならこっちの色のほうが明るくてええと思うで。ヒラヒラもついててお揃いじゃ」
「ほんまに? ほなこっちにする!」
「ほれ、買うてやる。普段入れんような珍しい店に来れたけぇ、その礼じゃ」
「ええの?ありがとう藤堂はん!」
「ちょっと~!態度違いすぎない?」
「そうかぁ? 紫、われはええんか」
「オレはいい、それより藤堂さんさっきのねこ……」
「ないならええ。はよう帰ろうや、腹が減った」
触れるなと言わんばかりに話を切って藤堂は会計をすませ、荷物を左腕に抱える。
大雅が上機嫌で甘えるように右の腕を組むと夜光も負けじと左へと続く。
「大荷物だな、藤堂さん」
両手に花、と物資。
「左が重くて敵わん」
「なんでアタシには冷たいのよ~!そんな態度とっていいのかしら?壊したお店の請求分はまだ……」
「好きなだけ腕でも足でも組んどけや」
「足組んだら歩かれへんと思うで」
団子状態の藤堂の姿に思わず笑ってしまう。
だが、ほんの一瞬だけ、あのねこのぬいぐるみに藤堂が視線を投げたのを紫は見逃さなかった。


To Be Continued
【内緒の誕生日3話】

数日後。
調達当番の変更をお願いされ、快く請け負った藤堂は商店街を訪れていた。
あの店の前を通りかかり、思い出したように足を止める。窓際に寝転んでいたあの白いねこのぬいぐるみはもうなくなっていた。
「…………」
「藤堂さん、どうかした?」
「いや」
「これで頼まれたものは全部買えたね。あ、僕も持つ!」
「ほいじゃこっち持ってくれや。割れモンとは相性が悪いけぇ、頼んだど」
「はーい!」
任せてよ、と胸を叩き買い物袋を嬉しそうに受け取る。
今日は随分買い出しの品が随分と多い。なんとなく、その理由が分かってはいたが藤堂は何も言わなかった。



「おかえりなさい」
アジトに戻るとすぐ桃華が迎えてくれた。
桜威が駆け寄りなにかを小声で聞くと小さく頷いて顔を見合わせて笑う。
そのうち平田もニコニコと手を振りながらやってきた。
「おかえり~! さぁさぁ、荷物はおじさんが持つから……って重っ!はやくリビングにおいで~」
「すぐそこじゃろ。これぐらい」
「今日の主役にそんなことさせられないだろ~」
「あっ……」
「あ……」
「平田さん……」
「しまった!今の聞かなかったことにして……、無理?だめ? あ痛ててて、ちょっと双子!両手が使えないからって!つつくなよ!落としちゃうだろ!」
「ほんっとダメだよね、平田さん」
「ほんとダメですよね、平田さん」
「でも当日まで我慢できたから偉いね」
「そうですね」
「だろ! ご褒美に今日は飲んでいいよね?ね?」
「いつもと変わらないじゃん」

足取りの軽い三人の背を見て藤堂は目を細める。
まさか、とは思っていたが。
このドアを開けた瞬間に並ぶ顔を、おそらくかけられるであろう声を創造すると自然と顔が綻ぶ。
藤堂は双子にエスコートされ開かれたリビングの扉をくぐった。



「せーの、藤堂さん誕生日おめでとう~!」
夜光の掛け声を追うように一斉にクラッカーが鳴らされる。
そう、今日は藤堂の誕生日だ。
キッチンでは美土里と花梨が腕を振るっていて次々とテーブルに料理が並べられていく。促されてソファーに座った藤堂に紫がプレゼントの箱を手渡した。
「誕生日おめでとう、藤堂さん」
「なんじゃ仰々しいのう、ちゃんと祝われると照れくさいわ。……開けてもええか」
リボンを解くと青を基調としたストールが顔を出した。ふわりと広げると和柄が浮かぶ。
「全員で選んだのよ、あまりつけない色だけれど似合うかと思って」
「ははは、嬉しいもんじゃのう」
賑やかな夕食が始まった。


To Be Continued
【内緒の誕生日4話】

今日は藤堂の誕生日だ。
豪華な夕食と宴会を終えて、藤堂は端末を片手に早足で部屋に戻る。
これから夜光の店で常連客を巻き込んで盛大に誕生日会をするそうだ。一番張り切っているのは平田だったが。
何通も山のように届くメールの名前と内容に照れくさそうに笑みをこぼし、ふと顔をあげるとちょうど部屋の前に紫が立っていた。
「藤堂さん」
「おう、紫も行くか?帰れるのはいつになるか分からんが」
ははは、と明朗な笑い声が廊下に響く。いつになく上機嫌な藤堂の表情をじっと見つめ、紫は抱えている包みに添えた手の力を強めた。
「行くつもりだ、その前に……。渡したいものがあるから部屋に入ってもいいか」
「? おう」
部屋に入るなり、紫は藤堂へ可愛らしくラッピングされた包みを差し出す。
「もらってくれ」
「…………」
中身がなんであるかを理解した藤堂は軽く唇をかんで静かに開封していく。
顔を出したのはあのしろいねこのぬいぐるみだ。表面は短毛ではあるが手触りが良く、優しく握っていても沈み込むような柔らさがある。
「……紫」
「欲しかったんじゃないのか?」
「…………いや、わしは……。わしみたいなモンが、こがいなぬいぐるみなんぞ欲しい言うたらおかしいじゃろ」
「おかしくない。欲しいものは欲しいと言わないと分からないぞ」
「その台詞、普段のわれにそのままそっくり返してやるわい」
口をとがらせて藤堂は視線を横に落とした。
「ありがとうな。紫……」
(直接渡して正解だったな)
無骨な手でふにふにと嬉しそうに顔を撫でている姿を誰も知らないのだと思うと、優越感とともになんだか妙に可愛らしくて胸がいっぱいになる。
(かわいい……なんて言ったら怒るんだろうな)
あの鬼の藤堂が、だ。ぐっと抑えて紫はひとつ心配していることを口にした。
「もし見つかって困るなら他のものに変えるけれど、大丈夫か?」
「そんなわけいくか。お前がわしにくれたんじゃ、後生大事にする」
「そこまでしなくてもいいけど……」
勿論ぬいぐるみなのだが、あまりに優しく撫でるので表情も相まって本当に気持ちよさそうに見える。
可愛いもの好き、と公言するぐらいなのだから藤堂も本当に嬉しそうだ。
「紫には驚かされるのう。いくら物欲しそうでも、わしにこんな可愛いものをくれるのはお前ぐらいなもんじゃ」
「もっとワガママ言ってもいいんだぞ」
「充分好きにさせてもらってるがの。……わしは欲張りじゃけぇ、ひとつでも手に入れば全部欲しゅうなる」
「……? そんなにたくさん欲しかったか、ねこ」
真面目な顔で的はずれな返しをする紫に藤堂が肩を揺らす。
「殺風景な部屋じゃけぇ、少しは可愛げがでたかのお」
「夜も寂しくないしな」
「ははは。抱くのは自由じゃろうがな、じゃがわしにはもっとええモンがあるからのぉ。人肌寂しかったらお前に……」
ぬいぐるみをベッドの上に寝かしつけるようにそっと置いた指がゆっくりと紫のほうへ向く。
肩を撫で、頬に添えられた手は少し熱い。
「オレに、なんだ……?」
意地悪そうに聞くと藤堂は薄く笑う。
言わすな阿呆、と照れたように小さな声で囁いて藤堂は紫を優しく抱きしめたのだった。


END
【内緒の誕生日Side Story】

紫が洗濯物を抱えて廊下を歩いていると、風のような速さで黒いなにかがランドリー室に入っていくのが見えた。
(なんだ……?)
静かにランドリー室の扉を開けて中をのぞく。
そこには背中を丸めてきょろきょろと辺りを気にする藤堂の姿があった。
「どうしたんだ藤堂さん」
「おあっ!?」
「!?」
「……は。あ、な、なんじゃ、ゆ、紫か……」
慌ててとっさに背中のほうへと隠したものが何であるか、紫にはすぐに分かってしまった。
「それ……」
あの、ねこのぬいぐるみだ。
観念してか藤堂は持ち直して少し左右に揺らして見せる。少し汚れているようだった。
(ずいぶん撫でていたからな……。本当に気に入ったんだな)
「元が真っ白じゃからのぅ。洗ってやるかと思うたんじゃが……あいにく部屋の洗剤が全部切れとってな」
「そうか」
「…………」
「なぁ、藤堂さん」
「なんじゃ」
「洗剤だけ取りに来て、部屋で洗ったらよかったんじゃないのか?」
「あ…………」
面食らったように藤堂が目をパチパチさせている。
そんなことも忘れるほど一刻も早く洗いたかった、と。藤堂らしからぬ行動に少し嬉しくもある。
「………あー………、うん。そうじゃな……」
バツが悪そうにぬいぐるみを両手に包むように握り締めて視線を外した藤堂に、紫は手を伸ばしていつもされるようにポンポンと頭を撫でた。
「可愛いな、藤堂さん」
「可愛いわけあるかい!」
(そういうところが可愛いんだけどな……)
さらに口に出したら面倒なことになりそうなので、押し黙ることにした。


END